情報共有におけるストック情報とフロー情報のフォロー
以前のエントリーの「情報の属性」の話で、ストックとフローという話に触れました。
組織での情報共有をデザインするにあたって、「ストックとフロー」という考え方を理解しておくことは大切です。
今回は、その情報のストックとフローに焦点を当て、どのようなツールでどのようにカバーしていけばよいのかという話を書きます。
この記事の目次
ストックとフローとは?
まず、「ストック」と「フロー」という言葉を整理してみます。どちらも情報共有をデザインする上では重要な概念となります。
ストックとは、「蓄積する」という意味で、時間とともに消えることなく増えていくというイメージです。
つまり、「ストックの情報」とは、棄てることなく情報資産として「蓄積して活用していく情報」という意味になります。
具体的な例を挙げると、
- 社内の業務マニュアル
- 基幹システム内の顧客データ
- 日報
- 営業業績資料
- 会計伝票データ
- 契約書類
など、電子データか否かを問わず、色々あります。
一方のフローとは「流れる」という意味で、イメージとしては、「時間経過とともに消えていくもの」、というような感じです。
つまり、「フローの情報」とは、その場限りの情報で、情報資産として時間を掛けて利用されるのではなく、「瞬間的に活用される情報」という意味になります。
具体的な例を挙げると、
- ニュース
- メルマガ
- システムからの通知メール
- ちょっとした報告・相談事項
など、口頭でのやり取りから、電子データまで色々あります。
例を挙げてみると、感覚的な話ですが、ストック情報の方が「堅くて重い」、フロー情報の方が「ユルくて軽い」ような感じがします。
とはいえ、堅い情報、ユルい情報、どちらも組織にとっては重要な情報には変わりありません。
「情報共有」といえば何かと「ストック情報」をイメージされる方が多いようにも思えます。しかし、私は「フロー情報をどう扱うか」こそが、組織での情報共有の成否を決めると考えています。
ストックの多くはフローから生まれる
SECIモデル(セキモデル)というナレッジマネジメントのフレームワークがあります。
SECIモデルの中には、「共同化」や「結合化」という、形式知を生み出すためのプロセスがありますが、この共同化や結合化には、フローとなる情報のやり取りが不可欠です。フローの情報は、口頭でのやり取りだけでなく、メールやコラボレーションツールでのやり取りも含みます。
その意味で、「ストック情報はフロー情報から生まれる」と言えるでしょう。
そして、私が見てきた範囲の話ですが、情報共有が上手くいっていない組織は、オンライン・オフラインコミュニケーション問わず、フローの情報量が圧倒的に少ないと感じています。
ストックを生み出すための前段であるフローのコミュニケーションが上手くいっていないということです。
フロー情報をフォローするために最適なツール
情報共有の要となるのはコミュニケーションです。これは言うまでもないでしょう。
会議のようなオフィシャルなコミュニケーションもあれば、「喫煙室での雑談」や「飲みにケーション」など、非公式のコミュニケーションもありますが、いずれも情報を共有する上では欠かせないものだと思います。
これらは、要するに会話を通じたコミュニケーションなのですが、情報共有が上手くいっている組織はこの当たり前のコミュニケーションが上手く取れています。
しかし、会話を通じたオフラインコミュニケーションは、記憶には残るかも知れませんが、記録には残りません。そして記憶とは当事者同士で共有されるもので、その場に居ない第三者には決して伝わることはありません。
フローをフォローするためのツールの例
そこで、ITツールを使ったフォローが重要になります。
具体的には、SlackやTeamsのようなコラボレーションツールや、ChatterやYammerのような社内SNS(Enterprise Social Network:ENS)などがあります。
これらを使うことで、会話だけだと「記憶には残るけど、記録には残りにくい情報」を残していくことが可能になります。
ツールを使うメリット1:言った言わないのトラブルを回避出来る
業務上の「言った言わないのトラブル」は多くの人が体験したことがあると思います。
「報告したはずなのに聞いてないと言われた」「部下に指示したはずなのに伝わってなかった」「納期が〇〇だといったはずなのに、□□だと伝わっていた」というようなことは、記憶に依存したフロー情報の整理が原因です。
いちいちそれらを「念書」や「覚書」のような「ストック情報」で取っておくには手間が掛かりすぎますし、そもそもコミュニケーションとしてどうなんだ、という話になります。
そこで、コラボレーションツール等を利用すれば、会話のように情報をやり取りしながら、記憶にも記録にも残せるようになります。このやり取りの経緯については、クローズな場でなければ、第三者の目に触れ得ることにもなりますので、「言った言わないのトラブル」は劇的に減るでしょう。
ツールを使うメリット2:新たなアイデア・知見の創出に繋がる
前段で記憶だけに頼った情報共有のデメリットを書きました。
しかし、記憶というのはバカに出来ません。「確かあの人がこんなことを言っていた」「〇〇さんと□□さんは親しいらしいので、今度□□さんを紹介してもらおう」「確か△△さんはあのプロジェクトに参加してたような」といった断片的な記憶から、人や情報を繋いでいく、繋がっていくという体験は無いでしょうか?
ツールを使ってフロー情報をフォローしていくことは、これらの知見を生み出すことにも繋がります。
タイムラインという場でのやり取りは、一見すると自分とは関係のないやり取りも多いようにも思えるかもしれません。しかし時間経過とともに状況というのは変わってきます。その時には関係がなくても、自分が新たなプロジェクトに割り当てられた、昇進した、異動した、といった状況の変化により、思い出すことがあるかもしれません。
そのように、「記憶」が残っていれば、検索をするなどして、「記録」にたどり着くことが出来ます。フローを誰ともなく共有しておくことは、新たな繋がりや新たな知見の創出に繋がり得るのです。
もちろん、常にそうなるとは限りません。というか、可能性としてはむしろ低いでしょう。しかし、フロー情報が共有されていなければ、その可能性は限りなく0になります。
メールはフロー情報の共有に適しているか?
誰もが使える情報共有ツールとして、代表的なものに「メール」があります。
メールアドレスだけ持っていれば、端末を問わず送受信出来ますし、初期導入費用なども殆どかからないため、事実上の標準ツールとして活用されています。
標準ツールなので、メールでフロー情報を共有するという考えもあるかもしれませんが、二つの理由から止めた方がよいと思っています(もっとあるのですが、長くなるのでここでは二つに絞ります)。
一つ目は、スピード感です。
宛先を指定して、件名を考えて、本文を書く。お疲れさまです(お世話になっております)のテンプレート的書き出しに始まり、署名を挿入して推敲して送信、というのは、瞬間的な考えを書き込んだり、単にサクっと報告したいという際には非常にスピード感が損なわれます。コラボレーションツールやESNは比較的スピード感を損なわず発信が出来ます。
二つ目は、メールはプッシュ型のツールであるということです。
メールは宛先の方のメールボックスに蓄積されていく、プッシュ型の情報伝達と言えます。受信した方はとりあえず中身を見てアクションを判断しなくてはなりません。数が多くなると、その作業に多くの時間を費やさなければならなくなります。
「とりあえずCC」というような運用をしている場合などは、自分と関係のないメールがCCで溜まってくるなど、鬱陶しいことこの上ありません。最悪中身も見ずに削除されてしまいます。情報共有どころではありません。
プッシュ型であるからこそ、メールはフローの情報共有には向きません。
ツールが上手く使われるための前提条件
ツールを使ったフローの情報共有についていくつかのポイントを書きましたが、ツールの導入が上手くいくためには、対面でのオフラインコミュニケーションも活発であること、人間関係も良好であることが前提となります。
その前提が上手く行ってない組織については、ツールだけ導入しても無駄に終わるケースが多いので、その対策については、別途エントリーを書こうと思います。
ストック情報をフォローするために最適なツール
フローの情報がストック情報を生み出すのに重要な役割を果たすという話を書いてきました。ここから先は、生み出されたストック情報をどのようにフォローしていくかという話を書いていきます。
ストックをフォローするためのツールの例
ストック情報とは、業務マニュアルなどのように、組織内のメンバーに継続的に利用されるような情報を指します。
これらの情報をフォローしていくためのツールとしては、検索機能を備えたwikiのようなシステムが適しているでしょう。
具体的なサービス・プロダクトとしては、
などが挙げられます。
個々人のノウハウ・TIPSなどを投稿してSlackやChatterなどで共有し、それを見た人がさらに内容を充実させるといった使い方が理想です。
情報共有と言えば、このストックが中心に考えられることが多いのですが、フローとセットで運用するのが望ましいと考えます。役に立つストックは多くの人に利用され、そこからさらにブラッシュアップされてまた多くの人に使われていくという正の循環が生まれます。
ストックが上手く機能するには、フロー情報の活発なやり取りや、個々人の仕事への意識などが上手くかみ合う必要があります。
まとめ
フローとストックの情報について書いてみました。
どちらも組織で情報共有を進めるためには不可欠なもので、ストックとフローを上手くフォローするために、それぞれに適したITツールの導入も必要になります。
現時点では、単体のサービス・プロダクトだけでは、フローとストックの両面を効果的にフォローすることは難しいケースが多いです。それぞれにフロー・ストックに対して得意・不得意があるからです。
したがって、「社内SNSを導入すればOKだ」「wikiシステムがあればOKだ」という風にはなりません。複数のプロダクトを組み合わせるなどして、如何にフローとストックの両面をフォローするかが重要になります。
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