情報共有におけるプッシュ型とプル型の情報発信

以前のエントリーの「情報の属性」の話で、プッシュとプルというものを挙げました。

情報の「プッシュとプル」ですが、情報共有のやり方をデザインするにあたっては重要な考え方になりますので、今回はそれらについて解説していきます。

プッシュ情報とプル情報の違い

一言で書けば、情報を必要とするであろう方に「配信する」のがプッシュで、情報が必要な方が「取りに行く」のがプルとなります。

例えば、災害時の安否確認を考えてみましょう。

被災した方が親しい人に自分の無事を電話等で伝えるのが、プッシュ型の情報共有になります。一方、災害時は電話が繋がりにくくなりますので、「災害伝言ダイヤル」やFacebookなどに自分の無事を掲載することもあります。「〇〇さん無事かな?」と思った人が聞きに行く・見に行くというのが、プル型の情報共有になります。

プッシュとプル、情報共有のやり方としては、どちらもよく使われます。しかし、本来プッシュすべき情報をプルで共有してしまったり、またその逆になってしまうと、効果的な情報共有からは程遠くなってしまいます。

自分とはあまり関係のない話題のメールがCCで届き、さらにその返信や転送が重なり、メールボックスがその話題で埋まってしまった、といった経験はないでしょうか。本来プッシュすべきでない人にプッシュし続けてしまうと、CCメールが洪水のようにあふれ、いざ本当に必要な情報が出たときに見落としてしまうという悲劇にも繋がります。

このようなケースは、プッシュとプルのやり方を間違っていると言えます。

何をプッシュして、何をプルで共有するのかの違いを明確に意識しておくことは、効果的な情報共有に繋がります。

プッシュ型の情報共有ツール

まずは、プッシュ型の情報共有ツールについて解説します。

メールやメッセンジャーのようなツール(LINEやFacebook Messengerなど)は、情報をプッシュするツールと言えます。

送信すると受信者のスマホが鳴動したり、アプリに数字のバッジが付いたり、パソコンでポップアップが出たり、要するに「情報が来ましたよ」というお知らせが受信者に明示されます。

送信者が受信者に通知をお知らせする(押し付ける)のがプッシュ型の情報共有ツールと言えます。

なお、「電話」は、相手の都合お構いなしに「俺の話を聞け」と割り込む究極のプッシュツールと言えるでしょう。

情報共有する上では、このプッシュ型ツールは非常に分かりやすく強力なものであるのは、多くの方がイメージ出来ると思います。

しかし、プッシュ型の情報発信は、当たり前ですが「送信者が受信者の数だけプッシュしなければならない」という構造なので、受信対象者が多ければ多いほど、情報共有が大変になります。メールであればCC、LINEであればグループ機能があるものの、それに頼りすぎると今度は情報が氾濫してしまいます。そこで、プル型の情報共有も重要になってきます。

プル型の情報共有ツール

では、プル型の情報共有ツールとはどのようなものでしょうか。

これはプッシュとは逆で、情報を必要とする人が情報を探し、必要な情報にたどり着けるようにするものを指します。

例えば、「共有ファイルサーバ」や「WEB(社内wikiなども含む)」などがそれにあたります。

「共有フォルダにある業務マニュアル」などは、普段はあまり参照されないかも知れませんが、新人が入れば「探して使う」というような形で利用されるでしょう。

情報の方が必要な方を引き付けるという意味で、プル型の情報共有ツールと言えるでしょう。なお、情報を必要とする方を上手く引き付けるためには、情報への到達容易性を高めておく必要があります。

プッシュを能動的な情報共有と表現するとしたら、プルは受動的な情報共有とも言えるでしょう。

プッシュ型と違い、送信者ではなく受信者(情報を必要とする方)が、情報を探しに行く形になるので、プッシュに比べ伝達経路が複雑化しません。

なお、グループウェアの「掲示板」のように、プッシュとプルが混ざったようなツールもあります。

プッシュとプルの使い分けが重要

情報共有を効果的に進めるためには、プッシュだけではダメですし、プルだけでも同様です。両方を上手く使いこなすことが重要です。プッシュとプルは対立する概念ではありません。

闇雲にメールを送信(プッシュ)しても行き詰りますし、社内共有フォルダにファイルを蓄積するだけ(プル)でも誰からも参照されないかもしれません。

では、どのように使い分ければよいでしょうか。

フローとストック、緊急性・即時性という点に注目してみます。

ストック型の情報はプル型での共有がスマートですし、緊急性・即時性の高いフローの情報はプッシュ型が適しているでしょう。緊急性の低いフロー情報はプル型の配信で構いません。

具体的には、「交通機関が乱れているので遅れます」というフローの情報で緊急性を要するものであれば、迷わずプッシュ型の電話かメッセンジャーを使いましょう。当たり前ですね。

「来週有給を取ります」というフローの情報で、それ程緊急性を要するものではないものであれば、グループウェアのカレンダーに書き込む等して、プル型の情報共有にすればよいです。これを例えば全員用メーリングリストなどでプッシュしてしまうと、ノイズメールになっていきます。もちろん、同じ課の仲間など近い人には口頭などで伝えておく必要があります。プル型で共有して、口頭などで軽くプッシュする、というやり方がスマートと言えるでしょう。情報の洪水が起きにくくなります。

また「新人用業務マニュアル」といったストック情報であれば、共有フォルダや社内wikiなどのプル型の情報共有でよいでしょう。

逆に、「交通機関が乱れているので遅れる」という情報を、誰にもプッシュで伝えずにグループウェアのカレンダーにプル的に書き込んだとしても、中々伝わらないでしょう。また「新人業務マニュアルです」というプッシュメールが来たとしても、ファイルが複製されて版の管理などがしにくくなるという弊害もあったりします。

これらのケースは、プッシュとプルの使い分けが上手く出来ていないケースになります。

なお、ストックとフローについては、下記をご覧ください。

プッシュすることだけが情報共有ではない

ここまでお読みいただければ、適材適所の道具選びが必要ということが分かると思います。

必要に応じて、プッシュしながらプル情報を発信する、といった複合技も可能です。

というか、多くの方が既に実践していることでしょう。例えば、「気に入ったWEBサイトがあったので、URLを貼り付けてメールやLINEで送る」というのは、プル型の情報を宛先の人にプッシュするということになります。

WEBサイトというストック情報を、メールやLINEでプッシュして、情報にプルするというやり方です。

何でもかんでもメールやLINEで発信するというプッシュ型の情報発信だけに偏重してしまうと、本来ストックすべきだった情報がフローになって消えていく恐れもありますので、注意しましょう。必要に応じてプルも混ぜるというやり方が分かりやすい情報共有となります。

必要な情報は自ら取りに行けるようにすること

ただし、プル型の情報共有が実現出来ていないと、プッシュだけに偏りがちになります。

例えば、そもそもグループウェアがなければ、スケジュール確認などはメールなどのプッシュ型ツールでやらざるを得ないでしょう。そもそも共有フォルダがなければ、メールでファイルを添付せざるを得ません。

メールは万能ツールではありません。所詮プッシュ型の情報共有ツールでしかありません。

効果的な情報共有には、プル型の環境も用意しておく必要があります。グループウェアだったり、データベースシステムだったり、掲示板、wiki、共有フォルダ・共有サービス、検索エンジンなど、プル型のツールは数多くあります。

情報を必要とする方が、自ら取りに行ける環境が備わっていることが重要になります。

「とりあえずメールとLINEしか使ってない」という組織は情報共有が上手く出来ていない可能性が高いので、要対応と思われます。

まとめ

プッシュとプルの情報共有について述べてみました。

情報の内容、その時の状況に応じて、プッシュ型ツールとプル型ツールを使い分ける、あるいは複合的に使うということが大切という話でした。

プッシュ型の情報共有は分かりやすいですが、情報量が氾濫したり、経路が複雑になりがちのため、プル型と上手く組み合わせて使いましょう。

また、情報伝達は、ITツールのみで行うものでもありません。「〇〇の件、□□に書いといたから後で見て」というようにプル型の情報のありかを口頭で伝える(プッシュする)というのも有効です。

ツールは情報共有を促すものではありますが、その得意・不得意を意識して利用すれば、その効果をより引き出せるでしょう。

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