中小企業におけるRPA導入の注意点
先日、日経クロステックで下記の記事がありました(全て読むには会員登録が必要です)。
超ざっくりした内容としては、「日本市場においてRPAの引き合いは非常に多いが、全社業務の見直しを置き去りにしたRPAの導入は、却って業務のブラックボックス化が進むことになるため注意が必要である」といったものです。
指摘事項については、全面的に同意です。
RPAは魔法のツールではなく、現時点(2019年3月)で出来ることと言えば、飽くまで定型処理の自動化です。
大企業や自治体などをはじめとした、「年間〇〇時間分の業務量を削減!」といった派手な事例も沢山あります。皮肉なことに日経自体が煽っているフシもあります。
今回のエントリでは、大企業ではなく、中小企業がRPAを導入する際に注意した方がよいことを書いてみます。
この記事の目次
そもそもRPAとは何か?
そもそもRPAとは何でしょうか。
言葉としては、Robotic Process Automationの略で、大まかに言えば、「パソコン上での仕事を、人の代わりに行うロボットプログラム」のことです。
一説には、「機械学習(AI)」による反復学習を重ねることで人間の判断も代行していくという概念も含まれるようですが、現時点(2019年3月)ではそこまで高度なものは殆どリリースされておらず、予め人間がルールを策定し、それに沿った動作をするというものが大半になります。
個人的な感想としては、まだ期待の方が大きすぎて、実態がついて来ていない状態で、バズワードの域を出ていないかと思っています。
RPAの具体的な製品名としては、
などがあり、導入価格は基本的に公開されていませんが、数百万円掛かるとも言われています。
中小企業におけるRPA導入の問題点
中堅・中小企業では導入の費用対効果が合わない
RPA導入の前提となるのは、対象となる定型作業のボリュームです。
人海戦術で数万件のデータを定型的に処理(基幹システムからエクセルに転記する、またはその逆など)している場合であれば、RPAの得意とすることろなので、作業時間の大幅な短縮効果が期待出来ます。当然、処理件数のボリュームが多ければ多いほど効果が出て来ます。たとえ数百万円以上の投資をしたとしても、人件費の削減効果が見えやすいので投資費用の回収予測も容易です。これは大企業や自治体など、処理件数が膨大な業務がある場合には適用しやすいと言えます。
一方、そこまでの作業ボリュームのない中小の組織においては、費用削減効果がすぐに頭打ちになります。
場合によっては、事務担当のアシスタントを増やすといった施策の方がよいかもしれません。
業務フローの変更が必要なく導入できてしまう
「業務フローの変更が必要ない」というのはメリットに思われる方も多いと思います。しかし、裏を返せば、「業務の最適化」という視点が抜け落ちたままの導入になる可能性もあるということです。既存のやり方が果たして最適なのかと再考する機会がないままの導入になってしまうかもしれません。
全体を俯瞰してみれば、「そもそもやらなくても良い仕事」があるかもしれないのに、RPAで手当してしまうことで、やらなくてもいい仕事に投資をしてスピードアップを図るということになりかねません。この場合、RPAは対症療法であり、根本治療になりえません。
例を挙げてみると、A地点からB地点に従来は徒歩で書類を届けていたものを、自転車や自動車を使うことで飛躍的にスピードアップするのがRPAの考え方です。それに対して、そもそも書類を届けるという行為自体を見直して「ていうか、FAXやメールで済むよね」と気づくことがより重要なのですが、RPAを使ってしまうとそのことに気づきにくくなってしまいます。
これは組織規模の大小に関わらず注意すべき点です。
実際の業務に適用できない場合もある
よくあるのは、経営者がRPAのデモンストレーションを見て、「素晴らしい、ウチも導入を検討しよう」と思うケースです。
しかし、ベンダーの見せるデモは、それ用に最適化されたシナリオに沿ったもので、言ってみれば実験室内でのみ再現できる化学反応のようなものです。実際の現場では適用できないこともあります。
特に人間のアナログな判断が介在したり、イレギュラーケースが多々ある場合(主観ですが、中小企業の業務フローはイレギュラーが極めて多いと感じています)は、RPAの導入効果は高くなりません。
経営者は、特に管理系の現場を知らないことが往々にしてあるため、号令と現場の乖離という悲劇が生まれることがあります。
結局属人化する
RPAはプログラム処理の塊です。条件分岐やループ処理など、ルールを作るためにはプログラミング的思考が必要です。では誰がプログラムを作成するのかと言えば、結局RPAをカスタマイズする訓練を受けた現場担当者になります。プログラムの作成が成功すればそれは組織の大きな資産になります。しかし、結局作成者しかロジックが分からない、作成者しかメンテナンス出来ないということになってしまうのは容易に想像出来ます。
これでは次に述べる「エクセルによるEUC」と変わりがありません。
EUCによる業務のブラックボックス化
かつて、EUCという言葉がはやりました。
EUCとは、EnduserComputingの略で、実際に業務処理を行う人(エンドユーザ)が業務処理を効率化するために、自前で複雑なワークシート関数やマクロ、VBAを駆使する(コンピューティング)、といった概念になります。
もともとエクセルやアクセスなどに備わっている機能を利用するので、導入の敷居は低く、担当者が改善のために自習しながら必要な機能を作成していくことが出来ます。
EUCは非常に強力で、業務の改善に大きく貢献しました。「特定の列に数値とコードを入力したら、複雑な参照・計算を経て、アウトプットで自動的に出てくる」といった魔法のようなことが現場主導で実現出来るというのは、業務の改善に一定の効果が出ていたと思います。
その一方、問題も出ました。
作成した担当者しかメンテナンス出来ないという問題です。EUCで作られたツールには仕様書のようなものは存在しないことが大半です。計算式をみても、一つのセルにIFやAND、OR、VLOOKUP等が何重にもネスト(入れ子)して書き込まれていたり、何重にも参照されていたり、データ加工用のセルが隠し列にあって分かりにくかったり、一見何をしているのか分からない。丁寧に解読すればリバースエンジニアリングが出来るかもしれませんが、とても大変です。
下手をしたら、作成した担当者が碌に引継ぎもできないまま異動・退職するなどして、「アンタッチャブルな秘伝のエクセルファイル」となって、作成者不在のままいつの間にか業務の中核を担ってしまっているケースもあります。
ちなみに、これは上場企業を対象にした「内部統制(J-SOX)」が導入された際には、大いに問題になりました。担当者の頑張りで作成されたデータに関して「そのアウトプットが果たして適正なものなのか?」という担保が組織として取りにくいためです。
このようにEUCには功罪があった訳ですが、昨今のRPAの隆盛をみていると、組織として統制されないままの野良ロボットプログラムが量産されて、同じ轍を踏むような気がしてなりません。
正しいRPAの導入方法
RPA導入について、後ろ向きなことを書き連ねてしまいましたが、「RPAはダメ。クソ」と言っている訳ではありません。
RPAは強力なツールだということに異論はありません。ただ、折角導入するならば、その効果を最大限に引き出したいところです。そのためには、いくつかのステップが必要になると思っています。前述した問題点を裏返す形になります。
STEP1:業務システム・業務フローの棚卸・再考
まず取り組むべきなのが既存の業務フローの分析です。
ここをおろそかにして、「RPAありき」で検討してしまうと、業務フローの中の問題点が置き去りにされたままの対症療法的な手当になってしまい、根本療法に着手する機会が失われてしまいます。
分析にあたっては、データ中心アプローチで考えるのがやり易いと思います。
仕入や見積・売上データの発生から、在庫引当、納品・請求等に派生し、最終的に会計システムに至るまでの流れを図示するとよいでしょう。
この辺りはノウハウが必要になるので、当事務所のような外部の専門家に任せるのもよいと思います。
もしかしたら、業務フローの棚卸と再考を行うことで、基幹システムへの軽微な機能追加で済んだり、業務プロセスを統合する、情報共有で解決出来そう、など、この時点でそもそもRPAを導入しなくてもよいことに気付けるかもしれません。
STEP2:定型作業のボリュームの見積もり
分析の結果、どうしてもボトルネックになっている作業があった場合は、そのボリュームと複雑さ(単純さ)を見積もらねばなりません。
処理1件当たり担当者がどれだけの時間を費やしているか、またその件数は月平均何件程度かが分かれば、それを掛け合わせて大まかな時間の見積もりが出せます。
仮に、1件5分×6,000件/月を月給25万の3名で捌いているとします。月間500時間のボリュームになりますが、それが1件あたり1分に短縮されたら月間400時間分浮きます。一人で捌けるボリュームになります。
そこで発生した余剰人員は他の業務に回すか、気乗りはしませんがカットするなどの対応が検討出来ます。
仮にカットした場合、月間50万円浮きますので、RPAの投資分は1年で回収出来る、という見積もりが出来ます。
ただ実際には、そこまできれいに見積もれるケースは少ないと思います。
特に中小企業の場合は、様々な業務を兼務することも多かったり、そもそも作業ボリュームが月間100件程度だったり、イレギュラーケースに担当者が都度対応していたりすることも多いです。その場合は、わざわざRPAを導入するまでもない、という判断にもなります。
いずれにしても、作業ボリュームとその複雑さを見積もることが重要になります。
RPA作成のルール化
EUCと同じ轍を踏まないためには、ロボットプログラムの処理仕様やエラー処理、人による確認プロセスが明らかになった状態で運用するのが望ましいです。
スキルを持った担当者に依存しすぎるのではなく、作成された処理仕様のレビューを別の担当者が行うなど、ブラックボックス化しないためのルール作りが必要です。
少なくとも、一定のスキルを持った別の担当者が見てメンテナンス出来る、という状態にしておくようにしなければなりません。
終わりに
全体的に、様々な課題を考えると、中小企業におけるRPAの導入はまだまだ先のことになるような気がしています。また、導入する場合においてもSTEPを守ることを徹底した方がよいでしょう。
なお、当事務所に関しては、RPAを適用する業務がありません。
コンサルティングを主としているので、労働集約的ではあるものの、普段の業務は1件1件別物のオーダーメイド対応になり、定型業務と言えば請求書発行くらいになります。件数的にも人手で十分捌けるレベルです。
何を言いたいのかといえば、当事務所は「ユーザとしてRPAを利用する機会」がありません。RPAについては、ベンダ担当者から情報収集したりしているものの、実体験としてのRPAに関するノウハウは、ぶっちゃけせいぜい「ロケットマウスを使ってみた」程度のものしかありません。
したがって、RPA導入に関して言えば、RPAベンダの方がノウハウがあるのでそちらにお任せします。
ただ、その前段になる業務フローの棚卸・再考については得意とする部分ですので、課題があればお気軽にお問い合わせください。
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