情報共有の一つの視点 「情報への到達容易性」を高めること

倒木

「誰も居ない森で木が倒れたときに、音は出ているか?」という命題があります。

「音を聞く者が存在しない時、音は出ていると言えるのかどうか?」という認識論の思考ゲームのようなものですが、似たような視点で、

「誰もアクセスしない情報は存在しているといえるか?」

ということを考えてみました。

結論としては、誰にもアクセスされない情報は、たとえ存在していたとしても存在していないと見做してよいでしょう。

プライベートな日記や、機密情報のようなものは別として、「誰にも参照されない情報」というものは、考えてみると存在自体が矛盾しています。

「購読部数0の新聞」「視聴率0のテレビ」「決して誰にも読まれない本」といったものは、存在価値としては無に等しいでしょう。

したがって、「誰かからアクセスされうる」というのは、「情報」の大切な要件と言えます。このブログについても、誰からもアクセスされなければ、情報としての存在価値はありません。

アクセスされる経路が多ければ多いほど、参照され活用される可能性は高くなり、存在価値が出て来ます。

情報への到達容易性という考え方

いかに簡単に情報へアクセスできるか、という意味で、「情報の到達容易性」という言葉があります。この到達容易性は、アクセス経路の多寡にも左右されます。

イメージとしては「乗り入れ路線が多い駅ほど利便性が高い」というような感じです。

組織での「情報共有」を考える上で、「情報への乗り入れ経路を増やす=到達容易性を高める」という視点は必須だと言えます。

何故なら、冒頭で述べたように、有益な情報であっても、アクセスされることなく人目に触れないのであれば、存在価値は無いからです。

よく「組織内の情報共有が進まない」という声を聞きますが、その原因の一つは、この「到達容易性」をスッポリ見落としていることにあると感じています。

例えば「ファイルをサーバに保存している」ということは、実は「到達容易性」には直接関わってきません。

「どこかに保管されている」というのは、アクセスするための必要条件であるにも関わらず、「保管している」という時点で安心してしまうケースはしばしば見かけます。ただ保管されているだけでは、「そこに存在している」ということが誰かに知られない限り、誰にもアクセスされ得ません。

情報共有を効果的に進めるためには、「保管しているだけ」という状態からもう一歩進んで、見せる、伝えるという配慮が必要です。

要するに、情報の到達容易性を高めるという視点が必要です。

情報の到達容易性を高めるための工夫

では、組織内で情報の到達容易性を高めるためにはどうすればよいでしょうか。

3つのポイントを挙げてみます。「乗り入れ路線」の例で言えば、情報への乗り入れ路線を3つ整備するということになります。

  1. 検索エンジンの整備
  2. 情報保管のルール作り
  3. 個人による情報発信プラットフォームの整備

1.検索エンジンの整備

まずは検索エンジンの整備です。クラウドサービスであればOffice365のように全文検索エンジンが備わっているものもありますし、オンプレミスであってもエンタープライズサーチの製品はいくつかあります。

いずれにしても、組織内の情報を横断出来る検索エンジンがあれば、情報の到達容易性を飛躍的に高めることに繋がります。

なお、「情報を探す」という行為には2種類ありまして、一つは、「既知のものを探す」もう一つは「未知のものを探す」というものですが、検索エンジンはその両方をカバー出来るツールになります。

具体的な製品として個人的に注目しているのが、下記のNeuronです。

2.情報保管のルール作り

情報保管のルール作りですが、これはどちらかと言えば、ITツール云々ではなく、「運用の工夫」になります。

例えばLANで共有フォルダを運用しているとして、各人が好き勝手にフォルダを作成してしまうと、カオスな状態になります。

その無法状態を整備してルールを共有することが、情報への到達容易性を高めることに繋がります。

そのルール作りで気を付けるべきポイントもいくつかありますので紹介します。少し実務寄りの話になります。

2-1.個人フォルダは作成しない

よくやりがちなのが、「〇〇(個人名)専用フォルダ」というものです。個人のバックアップフォルダとして使う分にはそれで問題ないのですが、共有するという視点に立つと、そのフォルダの中身は「その人しか分からない」ためNGです。個人としては使いやすいかもしれませんが、個人の最適化はショートカットを使うなどして行うのが正しいです。

2-2.トップレベルにはフォルダを作成させない

共有フォルダのトップレベルにはフォルダは作成させない方がよいです。というのも、トップレベルで一度に視認しやすいのは、せいぜい20個くらいです。それ以上になると、視認性が下がります。

トップレベルにいきなり「20190424_議事録」というフォルダがどんどん作られたりすると、混沌の度合いが増していきます。そして、一度誰かが作成したフォルダというのは、削除しにくいものです。「このフォルダ、移動したいけど、大丈夫かな?何かあったら嫌だからとりあえず放置しよう」というのが普通の反応です。トップレベルに好き勝手にフォルダを作ることは、混沌度合いが一方通行で増える要因となります。

2-3.データ・ファイルの粒度に合わせたフォルダ設計をする

例えば、基幹システムやCRMなどで顧客番号などが付番されている場合、その番号を付与したフォルダ名を作るのがよいでしょう。

例えば、「A01203_●●株式会社」というフォルダを作成し、その取引先に関するファイルは全てそこに保存するといった具合です。

2-4.組織や業務に合わせてフォルダ設計する

経理であれば経理フォルダ、人事であれば人事フォルダ(かつアクセス制御を掛ける)といった形でデザインしましょう。個人の最適化を優先してしまっては、先ほどから申し上げている通り、混沌の度合いが増していきます。

組織や業務ごとに分けられていれば、アクセスしやすくなります。業務上よく使うフォルダであれば、自身のデスクトップなどにショートカットを作成して最適化しておけばよいのです。

2-5.フォルダ名に番号を付番する

組織や業務名というのは、50音順にはなりません。例えば、以下のように、業務の流れなどに応じて付番することで、視認性が高まります。

01_購買、02_製造、03_営業・販売(配下に0301_法人向け、0302_個人向けというサブフォルダを作る等)、91_総務、92_人事…

番号を付番することで、普段自分が使うフォルダを探しやすくなるというメリットがあります。

 

細かい話にもなりましたが、以上がルール作りの例となります。このルールを整備し、スタッフ皆がそのルールを共有することは、情報への到達容易性を高めることに繋がります。

要は、整理整頓されていれば、「アレどこにある?」ということが減るということです。

3.個人による情報発信プラットフォームの整備

最後は、情報発信プラットフォームの整備です。

これは一言でいえば、社内SNSやコラボレーションツールの整備となります。基本的にこれらのツールは、フローの情報を発信するものになりますが、有用な情報はシェアされるなどして、タイムラインに残り、人目に触れるものです。

情報を探すという行為の対象には、「既知の情報」と「未知の情報」があると書きましたが、情報発信プラットフォームは「未知の情報」にアクセスするために重要な役割を果たします。

情報発信はメールでもよいのですが、メールの欠点として、「書くのに時間が掛かる」「指定した宛先以外に届かない」というものがあります。

「お疲れ様です、〇〇です。」という書き始めて、推敲してから送信する、といった作業は時間が掛かるうえに心理的にも構えてしまうので、気軽な情報発信からは離れてしまいます。また、指定した宛先以外には届かないということは、後から参加した人などには届き得ないです。後から参加した人にとっては、到達容易性は0の「存在しない情報」になります。

社内SNSのように「宛先を指定しない情報発信」に抵抗がある方もいるかもしれませんが、やってみればどうってことはありません。

まとめ

情報は存在しているだけでは意味がありません。

誰かにアクセスされて、参照なり再利用なり、共有されることで初めてその価値が出て来ます。そのためには、「情報への到達容易性」を確保しておくことが重要です。

その方法の例として、「1.検索エンジンの整備」「2.情報保管のルール作り」「3.個人による情報発信プラットフォームの整備」を挙げました。

特に2の「情報保管のルール作り」については、金銭的な費用が発生するものでもないので、取り組まれていない組織はすぐに着手することが出来ます。

以上を通じて、効果的な情報共有に取り組んでいただければと思います。

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