No Email 情報共有のあり方を再考しませんか?1

以前、個人的なブログで(これも個人的ブログですが)、No Email!というエントリを書いていました。
かれこれ5年近く前になります。

最近読んだ別のエントリ(※注1)でも関連するものがあり、かつ、今自分が携わっているICTコンサルの仕事にも関連してくるので、これから書くような話が少しでも広がれば、という思いからまた書いてみようと思います。

話の根幹は、「Emailを使うな」ではなくて、「情報共有のあり方を適材適所の観点で、今一度見直してみませんか?」ということになります。

Emailの弱点

Emailには、いろいろな弱点があります。誤送信リスクなど、利用者の環境やスキルに依存してしまう事柄の他、私が大きな問題と思うのは「情報の経路が対象者の数と時間経過とともに級数的に増えていく」点です。
参考:Emailをやめるべき7つの理由

一般的に、情報活用の視点として「シェアする」「再利用する」「後から見る」という点は重要だと思われますが、メールの弱点には、誤送信リスクがある(取り戻せない)という仕組み上の問題の他、経路が複雑化し、「シェア、再利用、後から見る」、ということがやり難くなる、という点があるのも見落とせません。

メールが普及する前、多くの方は、電話や手紙、FAXなどを使って情報をやり取りしていたかと思いますが、それらには基本的に「1対1のやり取り」という前提があったように思えます。
その流れの中でメールを使うと、メールの持つ「複数宛先(CC等)」の機能が、むしろ足かせになってしまいます。

図示した方が分かりやすいので、図示しながら説明してみます。

1対1、1対数人の場合はあまり問題になりません(STEP1)。余裕です。
noemail_step1

ところが、複数人対複数人、例えば、5人でのやりとりとなった場合、情報の経路は一気に増えます。経路の組み合わせパターンは、最大で5の階乗の120本(=5!)になってしまいます(STEP2)。少しきついです。
noemail_step2

さらにある話題についてのやり取りが始まり、時間が経過していくと、
時間軸を加味した経路(赤い線)が増えていきます。図では固定メンバですが、人数の増減があると、もはや制御不能です(STEP3)。エントロピーがモリモリ増大します。
noemail_step3

「メールによる情報共有というタスク」の中に、「時間」と「人数」というパラメータが加わることで、不可逆に複雑化していきます。
話題が特定の人に向けて枝分かれ(フォーク)したり、いつの間にかCCに誰かが追加(または削除)されたり、実はBCCで知らない人にもこっそり通知されていたり、話題そのものがすり替わっていったり、という話はよくあると思います。

この複雑さは、STEP2辺りまでは何とか人力でカバーできますが、STEP3になると、人知を超えます。メールカオスです。

処理能力が高い人はそれでもカバーできるかもしれませんが、万人向けではありません。アスリートの世界です。
せっかくの処理能力の高さもそのようなことに費やすのは非常にもったいないと感じます。もっと動力を別の活動に振り分けるべきです。

おそらく、多くの方がなんとなくそういう不便さを感じてはいるものの「じゃあどうすれば良いの?」と、代替案がないことや、とりあえず使えるからアクションを起こすことに二の足を踏んでいる状況かと思います。

何故メールカオスが生まれるか?

自分のメールボックスをざっくり見てみると、以下のようなメールがたまっています。未読も多くあります。

    • メルマガ
    • スパム
    • アプリ等の通知
    • 業務連絡
    • メーリングリストの投稿
    • プライベートな連絡
    • 取引先からの連絡
    • やりとり中の議論

明らかに、情報の緊急度など、「情報の属性」が異なるものが、「Emailである」というただ一つの理由だけで受信箱の中に問答無用に放り込まれてきます。

勿論、「情報の属性」に応じ、振り分け機能などを使って、特に迷惑メールなどの不要な情報は表示させないような設定をすることも出来ますが、根本的な解決方法ではありません。

では「情報の属性」にはどんなものがあるでしょうか。簡単に整理してみます。5つ挙げます。(表1)

No 属性 属性の値
1 情報の向き 一方通行/双方向
2 対象の関連度 一対一/一対多/多対多
3 情報の保存要件 ストック/フロー
4 情報の公開範囲 公開/非公開
5 情報の緊急度 急ぎ/急ぎでない

日常的にやり取りするメッセージの中には、上記の属性が含まれているはずです。「成分」と表現しても良いかもしれません。「情報の成分」。

道具には、それぞれ適した使い方があります。
何がどれに適しているのか、それは情報の属性によって変わってきます。
利用者自身がそれを見極めて、適切な道具を利用することが望ましいのですが、現状では、事実上の標準ツールとして、Emailが広く利用されています。
Emailには汎用性があるので、利用することは決して間違いではないのですが、ベストな道具か、というのは別問題です。

「道具を使い分ける」という行為は日常的に行われています。例えば、

    • ゴルファーがゴルフクラブを使い分ける
    • 車の運転手がギヤをチェンジする
    • 食事中にナイフとフォークとスプーンを使い分ける
    • 料理人が素材、料理方法によって、包丁などの調理道具を使い分ける

など、挙げればキリがありません。

「プロゴルファー猿」のように、ドライバーのみでゴルフをプレイすることも可能かもしれません。ゴルフしたことないのでよく分かりません。
ギヤチェンジせずに1速で車を運転することもまあ可能です。
スプーンのみで食事をすることも可能ですが、赤ちゃんのようです。
ナイフ一本で素材を捌くのも可能かもしれませんが、サバイバル臭がしてしまいます。

いずれにしても、燃費や時間などの効率面やマナー等、「それで実行することは不可能ではないが、望ましくない」という状況なのはイメージ出来ると思います。

Emailが置かれている状況は、これに似ています。
メールカオスが生まれてしまうのは、「状況に応じたベストな道具を使っていない」ということに原因があると考えます。

カオスから脱出するには、「Emailありき」ではなく、「情報の属性」に応じて適切な道具を選択するという、ある種の「発想の転換」が要ります。

情報の属性(情報の成分)に応じたベストな道具とは?

私は情報の属性(情報の成分)に応じて、例えば以下のように振り分けてみると良いと考えています。

情報が持つ属性 適切な道具 利用シーン
双方向、多対多、フロー、公開、緊急でない 掲示板 インターネット掲示板。
双方向、多対多、フロー、非公開、(緊急でない) 内部掲示板(イントラ内のグループウェアなど)、社内SNS 社内業務連絡。
双方向、多対多、ストック、(公開)、緊急でない wikiなどの文書システム、ファイル共有システム ノウハウや資料の蓄積。
一方通行、一対多、フロー、公開、緊急でない ツイッターなどのマイクロブログ 個人や組織の体系的でない情報発信。
一方通行、一対多、ストック、公開、緊急でない ブログ 個人や組織の体系的な情報発信。
双方向、一対一、フロー、非公開 電子メール、メッセンジャー アプリやサービスからの通知、友人や家族とのやり取り。
双方向、一対一、フロー、非公開、緊急 電話、テレビ・WEB会議 トラブル発生時など、やり取りが必要な急ぎの個人同士の連絡。
双方向、多対多、フロー、非公開、緊急 テレビ・WEB会議、電話会議 トラブル発生時や、定例会議など、やり取りが必要な急ぎの組織同士の連絡。
一方通行、一対多、フロー、公開、緊急 テレビやラジオ 災害連絡などの通知

例として9つを挙げましたが、表1の「情報の属性」の組み合わせの数は全部で48通りあります。

しかし、「一方通行で多対多のやり取り」など、現実世界には存在しない組み合わせもあるため、すべてのパターンを網羅する必要はありません。

ここで、「Emailでなければならない」ものを考えてみますと、上記の属性で言えば、「一対一」「フロー」「非公開」という属性を持ったものくらいであることが分かります。
具体的には「システムからの更新通知」、「友達・家族同士のプライベートな通知」といったものがあるでしょう。
特に「ストック性」や「双方向性」の属性があるものについては、wiki的なものの方がやり易く、Emailは不向きと言わざるを得ません。

今では、社内SNSなどの導入事例も増えてきており、「Email以外の道具」を使うハードルは少なくとも5年前よりは確実に下がってきていると感じています。

Emailを闇雲に使い続けることでの生産性のロス(単に時間がかかる、抜け漏れが出る、という意味で使っています)に歯止めをかけることは、今後の組織の活動において、重要な視点であると考えます。

「やり易いから、慣れてるから」という理由だけで、Emailを使い続けることは、未来の自分も含んだ将来に対して、不良資産を残すだけです。

利用者個別の発想の転換も必要ですが、利用者任せにしすぎると、「シャドーIT」など、ITガバナンス上の問題も出て来るため、組織として対応する場合は、もっと上位の「組織としての発想の転換」も大切です。そのためにはまず、組織内のコミュニケーションを課題として認識することが必要です。

以上の話は、Emailに限定したでしたが、さらに先を考えると、その中でやり取りされる表計算ソフトやワープロソフトのファイルについても同じことが言えます。

長くなったので、それは次のエントリに回します。

※注1

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