「2025年の崖」問題とは何か?いまから取り組むべきレガシーマイグレーション

「2025年の崖」という言葉をご存じでしょうか。

「2015年の崖」とは、2018年9月に経済産業省から「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」と題するレポートが発表され、そこで触れられた言葉です。

レポートの標題にある「DX」とは、「デジタルトランスフォーメーション」の略で(トランスをXと略します)、レポートの内容としては、DXという変革に積極的に取り組まない場合どのようなことが起こり得るかをまとめたものになります。

「デジタルトランスフォーメーション」については、下記で解説してみましたのでご覧ください。

今回は、デジタルトランスフォーメーションではなく、「2025年の崖」について解説していきます。レポートは横文字がやたら多いので、なるべく日本語で書いていきます。

「2025年の崖」とは何か?

「2025年の崖」問題を一言で書くと、

  • 企業のITシステムの維持には様々な課題があるが、それらの課題を解決してDXを推進しなければ、2025年以降最大12兆円の経済的損失が発生する

という問題提起です。

では「様々な課題」とは何でしょうか。レポートでは大きく三つ触れられています。

課題1:データの活用

その一つは、データ活用です。

スマートデバイスやIoTの普及により、データの発生主体が爆発的に増えてきているのは誰もが知るところではありますが、今後、それらのデータを上手く活用できるかどうかが、事業活動の成否を決めると言っても過言ではありません。しかし、それらをキチンと活用できる基盤があるかどうかは、組織によってマチマチです。というか、殆どの組織は現状対応出来ていないでしょう。

「部門や職務ごとに最適化され、全体で上手く連携出来ていないシステム」などはよく聞く話ですが、そのような状態では、新たなシステムを導入したとしても、既存システムが足かせとなり、有効に活用出来ないのは目に見えているというのが、一つ目の課題の主旨となります。

課題2:維持管理費の高騰

もう一つの課題は、維持管理費の高騰です。

上記で挙げた「部門や職務ごとに最適化され、全体で上手く連携出来ていないシステム」といったシステムを見直さずに放置した場合、維持管理費も右肩上がりに増えていくという問題です。

「技術的負債」という言葉があります。

これは、システムの保守性を後回しにしながらメンテナンスすることで、将来へ改修のツケを先送りすることです。

何故保守性が後回しにされるのかと言えば、端的に言えば納期とコストの問題です。限られた納期と予算で要件を実現するためには、目の前のプログラムを手っ取り早く改修する必要があります。「とりあえず動く」ことで目先の要件は満たされるのですが、その一方で保守性が下がり、次の改修時にはより多くの工数を割くことになります。それが積み重なっていくことを「技術的負債が多くなる」と呼んでいます。

技術的負債の問題は特に今に始まったことではないのですが、抜本的な改善が要求されるDXの推進においてはそれが大きな足かせになっていくということです。

レポートでは、「IT関連費用の80%は現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り当てられている」ということで、維持するだけで手一杯で、新しいことに振り向けるリソースがたりないということにも言及されています。技術的負債を解消し、この比率を下げることも大切な視点になります。

課題3:保守の担い手不足によるリスクの高まり

次の課題は、維持管理費の高騰にも関連しますが、保守運用の担い手不足によるリスクの高まりです。

特にオフコン系の技術者は年々高齢化が進み、定年などで減ってきています。若手が割り当てられることもありますが、先の見えない技術領域に積極的に取り組んでいこうという人は少数派です。転職してしまうこともよくあるそうです。

大規模な開発を行っていた時の人材が退職し、しっかり引き継がれないまま開発のノウハウが失われ、システムのブラックボックス化が進むことは、大きなリスクになります

「属人性」というのはいかなる業務においてもついて回る問題ではありますが、2025年の問題に関して言えば、規模的にも非常に大きなインパクトを与えるものになります。

 

このようにいくつかの課題を解決せずに放置しておくと、2025年にはあたかも崖に落ちるように問題が顕在化していくだろうというのが「2025年の崖」問題となります。

レポートの大まかな流れとしては、「DXの推進においてはこれらの課題が足かせになるが、課題を乗り越えDXを上手く実現出来ないと競争力が失われ、経済的損失が発生する」というものになります。

DXの前にレガシーマイグレーション

DXを推進すべき理由は誰もが理解できることだとは思います。企業内システム(エンタープライズ)ではなく、一般消費者向けシステム(コンシューマ)においては、DXはどんどん進んでいるという実感があります。

AIを搭載したスマートスピーカーを使ったサービスや、様々なキャッシュレス決済サービスの登場、スマホで完結する各種手続き(個人売買、タクシー配車、民泊…)など、日常生活が変わるインパクトがあります。

しかし、企業内システムにおいて、そう簡単にDXを推進出来ない現実問題の理由として、レガシーシステムの存在があります。レガシーマイグレーションはDXの推進には欠かせない最初のステップと言えるでしょう。

レガシーとは「遺産」のことで、IT業界においては「古くから利用されている情報システム」のことを指しますが、あまり肯定的な意味では使われていません。

マイグレーションとは、「移行」「置き換え」という意味で、レガシーを新たな情報システムに引っ越すという意味になります。

ちなみにレガシーシステムというのがどれくらい古いかというと、私が知る範囲でいえば、今でも現役で動いている情報システムで最も古いものは1980年代に作られたものを見たことがあります。企業の基幹系と呼ばれるシステムです。

もちろん当時のままで稼働している訳ではありません。状況の変化に応じてカスタマイズが加えられたりしているため、当初の原型は殆ど留めていません。技術的負債も内包しており、当時の担当者が退職していないのは当然で、おっかなびっくり騙し騙し運用している状態です。

「2025年の崖」問題に対応するために

したがって、2025年の崖で落ちてしまわないようにするためには、早くからDXを見越したレガシーマイグレーションが必要です。

レポートでは、「DX推進システムガイドラインの構成案」として、16の項目が紹介されています。

ここでは、その中でも特に重要と思われるポイントを3つピックアップして紹介します。

経営トップのコミットメント

まずは、経営トップのコミットメントです。これが一番ハードルが高そうな気がしています。これが出来ているなら今のような状況はそもそもないのかも知れません。

新たなデジタル技術の活用やシステムの刷新においては、その前提として、ビジネスや仕事の仕方そのものの変革へのコミットが不可欠であり、経営トップ自らがそのプロジェクトに強いコミットメントを持って取り組んでいるか。

ユーザ企業自らの要件定義能力

次はユーザ企業の要件定義能力です。要は「丸投げしない」ということに尽きます。「少なくない金を払ってるんだからよきに計らえ」というのも理解できなくはありません。しかし、一般的な商品の購入と違い、情報システムはユーザとベンダが一緒に作り上げていくという視点が不可欠です。

「金を払っている客が手伝わされるなんて」という気持ちでは良いものは出来ません。

ベンダはシステムを作り上げるプロではありますが、ユーザの業務に精通している訳ではありません。お互いのプロの部分を補完し合いながら進めていく必要があります。

ベンダは単なる外注先ではなく、重要なビジネスパートナーです。

ユーザ企業とベンダー企業が責任分担を明確にしつつ、ユーザ企業は、企業として何をやりたいかを示しているか。
⁻要件の詳細はベンダー企業と組んで一緒に作っていくとしても、要件はユーザ企業が確定することになっているか(要件定義の丸投げはしない)

情報資産の仕分けと移行プランニング

レガシーマイグレーションにおいては、仕分けが重要になります。「とりあえず現行保証」としたいのは理解できますが、それだとスコープが際限なく広がり、結局同じように技術的負債を内包したシステムが出来上がります。それでは何のためのレガシーマイグレーションか分かりません。

新しいものを生み出すためには、古いものを切り捨てる判断も場合によっては必要です。

特にレガシーシステムはサンクコストになりがりです。

「これまでこれだけの費用を掛けたのだから、この機能は捨てられない」というのはよくありますが、大切なのは「今後要るか要らないか」です。断捨離的思考も重要です。

どのデータをどのシステム、環境に移行するかの仕分けやプランニングができているか。
⁻例えば、以下の4つに分類できているか
①頻繁に変更が発生し、ビジネス・モデルの変化に活用すべき機能は、クラウド上で再構築
②変更されたり、新たに必要な機能は、クラウドへ追加
③肥大化したシステムの中に不要な機能があれば、廃棄
④今後、更新があまり発生しないと見込まれる機能は、その範囲を明らかにして、塩漬け

感想など

役所のレポートにしては、切迫感を持って踏み込んだ内容だと思いました。レガシーシステムが現役で稼働している組織にとっては、技術的負債を整理し、新たな取り組みをするきっかけになるかもしれません。

そうなれば当然、ユーザ組織のIT部門に期待される役割は非常に大きなものになり、既存の社内システムのお守りだけではなく、攻めの提案が出来なければIT担当者の生き残りは難しくなるでしょう。

組織のDX推進のキーとなるのは、ユーザ組織のIT担当者になるのは間違いないと思います。

したがって、組織としてDXを推進するには、社内の要員育成が重要で、そこにコスト(金銭的、時間的、人的コスト)を掛けられない場合は、2025年の崖に落ちてしまうのではないでしょうか。

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