情報の非対称性が組織にもたらすもの

「情報の非対称性」という言葉があります。

よく例として、個人向け不動産業などにおける、「業者側と顧客側の情報量の格差」などが挙げられます。

売り手である不動産業者は、物件について詳細を知っています。間取り、築年数、交通の便などは当然として、「実はめっちゃ湿度が高い」「開かずの踏切に引っかかると徒歩5分で駅に行くのは不可能」「事故物件である」、といったマイナスの要素も知っているでしょう。一方、客の方と言えば、特にマイナス要素の情報は知りません。ちゃんと聞けば教えてくれるかも知れませんが、積極的にオープンにはされないものです。

このような場合、情報が非対称であると言われます。

組織において情報共有が進まない理由

前述のように、ある情報について「知る者と知らない者」がいるとき、その情報は「非対称」な状態にあると言えます。情報が非対称で偏っている場合は、知る者と知らざる者の間に、「力の差」が生まれます。

私は、組織内で情報共有が進まないのは、この「非対称性の生む力の差」によるものかもしれないと考えています。

「情報の非対称性」が力の差になる、というのは誰でもそれとなく分かっています。

相手が気づかないうちに奇襲攻撃したり、周囲の知らない情報で出し抜いたり、と、情報を余分に持っている者が勝つという例は誰でも知っています。「信長の桶狭間」「秀吉の中国大返し」「家康の関ヶ原」など、情報を制した者が勝った例は歴史を紐解いてもいくらでも例が出せそうです。

「自分が知っていて、周りが知らない」という「情報の非対称性」は、敵に勝つ上で強力な武器になると言えます。

組織内のパワーゲームでも同じで、情報の非対称性をキープすることが勝ち残るための必要条件だと考えている人も中にはいるかもしれません。

しかし、後述しますが、残念ながら非対称性だけでは武器にはなりません。

そこを勘違いすると、情報の非対称を闇雲にキープしようとしてしまうという愚行を演じてしまいます。

組織において情報共有が進まないのは、この「情報の非対称性をキープしたい勢力があるから」だと考えます。

情報とは何か?インフォメーションとインテリジェンス

話はちょっと脱線します。ここまで「情報」という言葉を適当に使っていましたが、「インフォメーション」と「インテリジェンス」という言葉を使って、少しだけ細分化してみます。どちらの英単語も日本語訳をすると「情報」となってしまうようですが、二つの意味するものは少し異なります。

インフォメーションとインテリジェンスの違い

「インフォメーション」は、「事実やデータが集まったもの」で、例えば「○○選手がゴールを決めた」「一ヶ月の売上データ」という、単に事実を反映したものを指します。

対して「インテリジェンス」は、「複数のインフォメーションを元に分析を加え、行動の判断基準となるもの」です。

例えば、「○○選手は前回と今回ゴールを決めている。どちらもホームの試合だ。次回の試合はアウェイで苦手な△△が相手だ」「一ヶ月の売上データを見ると雨の平日は売上が落ち込む、明日は平日で予報は雨だ」といったものになります。

当然ですが、後者のインテリジェンスの方が高度で知恵を使います。

この二つの違いを明確に意識しておきたいと思います。

ところで、前段で「情報の非対称性が力になる」ということを述べました。

しかし、「情報」という言葉をモヤモヤしたまま使っていたので、表現が正確ではありませんでした

「インフォメーションとインテリジェンスの違い」を踏まえて正しく直すと、「情報の非対称性=インフォメーションの非対称性」となります。

そして、さらに訂正すると、「インフォメーションの非対称性」そのものが力になるのではなく、力になるのは「インテリジェンス」の方です。

信長の桶狭間、秀吉の中国大返し、家康の関ヶ原、いずれも本質は「インフォメーションの非対称性」ではなく、「インテリジェンス」にあると考えます。インフォメーションを積み重ね、他人よりも優れた推理を生み出すことが強みになるということです。

「インフォメーションの非対称性」は実はそれ程大きな強みにはなりません。というのも、インフォメーションの非対称性が崩れただけで無力化されるからです。そしてインフォメーションの非対称性はネットワークが発達した現代においては簡単に崩れるでしょう。

多くの人はインフォメーションとインテリジェンスを勘違いしている

「インフォメーション」と「インテリジェンス」は似ているようで違います。

似ているので混同してしまう人も居ます。

前の方で述べた「情報の非対称性が武器になると考える人」などがそうです。

良いリーダーはインフォメーションを囲い込みません。

インフォメーションを囲い込んでしまうと、インテリジェンスが生まれ難くなることを理解しているからです。インフォメーションを広く配信すると、多くの目がその中からインテリジェンスを組み上げ易くなります。

逆に、悪いリーダーは、「インフォメーションの非対称性」がインテリジェンスであると誤認し、インフォメーションばかりを囲い込んでしまいます。

しかし、非対称性を恣意的に保つ、ということが現代ではむしろリスクになりやすいのです。記録媒体(スマホ)やコミュニケーションツールが複雑に発達した現代では、インフォメーションを囲い込むことのコストが膨大になります。囲い込みに失敗した場合のリスクは言うまでもありません。

情報の非対称性が組織にもたらすもの

インフォメーションとインテリジェンスという言葉を使って情報という言葉を細分化してみました。

「情報の非対称性」とは、実は「インフォメーションの非対称性」だったということが分かるかと思います。

そして、インフォメーションの非対称性は組織に何をもたらすのでしょうか。

結論を言えば、殆ど何ももたらしません。

なぜなら、組織にとって必要なのはインフォメーションだけではなく、それに基づいたインテリジェンスだからです。したがって、よりよいインテリジェンスを生み出すためには、インフォメーションは共有するに限ります。

インフォメーションの非対称性をキープすることが定着している組織においては、それが阻害されてしまいます。

情報を民主化するためには

よりよいインテリジェンスを生み出すには、誰もが必要なインフォメーションにアクセス出来る、発信出来る環境を整えることが必要です。それがインテリジェンスが生まれやすい素地となります。

私はこのことを「情報の民主化」と呼んでいます。情報の民主化が進んだ組織というのは、簡単に言うと、「風通しのよい組織」です。

情報の民主化には、この後に述べる二つのアプローチがあります。

組織面のアプローチ(ソフト的アプローチ)

まず一つは、組織面のアプロ―チです。

一言で書けば、「風通しをよくする」ということです。

風通しの悪い組織には、下記のようないくつかの共通点があります。トップが「ウチは風通しが良いから」と思っていても、現実は陰口をたたかれているケースもありますので注意してください。

  1. すぐに否定される
  2. 失敗したらただ叱られる
  3. 疑問を持つことが許されない
  4. 上下関係が厳しい
  5. 評価されない、または評価が恣意的である

1は言うまでもありません。建設的な否定なら良いのですが、論理的でない理由で却下など、もっての他です。否定ばかりだと萎縮してよいインフォメーションが出にくくなります。余談ですが、私は過去に「企画書のフォントが12ptでないので読めない」という理由で、普段新聞を普通に読んでいる方から、某ルーペのCMのように、企画の中身も読まれず却下されたことがあります。この場合は単純に12ptに直せばよいのですが、訳も分からずに却下されたりすると中々絶望的です。

2については、失敗に対しただ叱責するだけでは、失敗した方は次から失敗を隠すようになってしまいます。「クレームは宝の山だ」という組織とは対極にあります。

3もよくあります。業務命令に対し、疑問を持つことが許されない、違う視点でのアプローチを許さない、という組織は、インテリジェンスの芽を自ら摘んでいます。「疑問」もクレーム同様、宝の山です。

4は一長一短ありますが、個人的には短の方が強いと思います。強すぎる上下関係は思考停止を生みがちです。「下」の行動原理も、「如何に上に気に入られるか」となりがちです。

5は積極的なインフォメーションを発信し、インテリジェンスを提示したものは正当に評価しなければ、モチベーションに繋がらず、最悪組織を離れて行ってしまいます。

これら1~5を直していくことが、情報の民主化につながるでしょう。

既得権益が崩れるということで、抵抗されることも多々ありますが、組織全体のことを考えると、そうも言っていられないでしょう。

道具の整備によるアプロ―チ(ハード的アプロ―チ)

ソフト面の対応だけでなく、ハード面・コミュニケーションツールの整備も重要です。

ツールの例としては、グループウェア、社内SNSなどの導入が挙げられます。

情報共有の「場」を提供することが肝になります。具体的な製品は沢山あるので、現状の設備、予算、組織規模などによって選定するのがよいでしょう。

ただ、言うまでもありませんが、ソフト面の手当もしなければ、ハードの効果はすぐに頭打ちになります。

どちらかと言えば、ハードの整備は実はあまり難しくありません。技術的には難しいこともありますが、「ソフト面の答えのなさ」に比べれば大したことはありません。

まとめ

ちょっと小難しい話になりましたが、情報という言葉を「インフォメーション」と「インテリジェンス」に分けて考えました。

そしてインフォメーションの囲い込みは組織に何ももたらさないことを述べました。むしろ積極的にインフォメーションの非対称性は崩していくべきもの、民主化していくべきものと考えます。

さらに情報の民主化には、ソフト面、ハード面のアプローチが必要だという話を紹介しました。

その辺については、ノウハウが必要になる部分ですので、ご相談いただければソフト・ハード含め対応させていただきます。

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